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おもろい話05 〜青春どすこい〜

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青春どすこい

名門、出羽の海部屋にお邪魔した時の写真です。
かなり前のこと。
あの時、頬っぺから湯気を立たせた少年達が目に浮かぶ。
その少年たちも、いまはどうしているだろうか。
その頃、べそかいたり、故郷へ長電話をかけたりしていた彼らが懐かしい。
 
昨年、しごき事件で一躍相撲部屋が注目されたが、
私が取材した折の少年達は、部屋も、大学の合宿のようで、
みなユーモラスで倔託がなかった。


きびしい修行めいた、集団生活の一方、そんな明るさを保ち得ているのは
やはり、希望という名の青春を生きているからだ、と思った。
 
遊び盛りだけあって、いちばん欲しいのは自由デス、と彼らは言っていた。
ほとんどが、親や知人のすすめで入門してくるそうだ。
好きで入門するケースは少なく「ま、やるだけ、やってみよう。」と、
先のことはこだわらず、あっけらかんとしている。

しかし、どの部屋でも、逃げる奴はいるそうで、

「うちでも、いたよ。寿司屋の息子で、親から3年修行してこいって言われて、
 10ケ月頑張ったけど逃げた。オレが、自動車教習所で、ハンドルにぎって、
 ふうふういっていたら、奴がバイクでやってきて、
 『オーイ、おまえも逃げろ。』なんて笑っていたけど、すぐ、つかまって戻ってきた。」

稽古がきついだろうっていわれるけど、一時間くらいで終わっちゃうから、
サラリーマンが、さて働こうかといってる時間にこっちはソロソロ昼寝しようかってんだから、
大変でもないよ。

土俵の塩は、しょつぱいというよりカライんだ。
あれを噛むと背骨がしゃきっとする。なめくじみたいだったからだが、シャンとする。
ヨシ、かあちゃんがんばるぞ、なんて、気合いいれてやるわけよ。

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相撲のおもろい話、聞きたいと思ったら、やはり、田子の浦さんでしょう。
本音でしゃべり、しかもユーモラス。
伝統だの、国技だのって堅い話じゃなくて。
この人の泣き笑い相撲人生を話してもらいました。


Tago

(田子の浦)ーーーー

エーっと、生まれたとこから言うの?
千住。
子供のじぶん、両親が急に死んじゃって一人ボッチになっちゃってね。

で、からだがデカイからって、人にもすすめられて、相撲の世界にはいったってわけ。
14だった。
当時はネ。
拳闘もレスリングもなんにもなかったから、われこそはって、
腕っぷしの強い奴はみんな相撲取りになったんだ。

相撲社会ってのは、一段違うと虫ケラだ。
一枚違うと殿様と家来だって言われるくらい待遇が違ってネ。
 
師匠が真っ白い大福もってきて、「オイ、この大福は真黒だなア」って言やあ、
イヤ真白ですって言うもんは絶対いないわね。

とにかく序列の社会だ。いいもの着たり、うまいもの食いたきゃあ、強くなれと。


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だから、ぶったたく、けっとばす、そりゃ大変なケイコだった。
当然、逃げちゃったのも多かったね。
俺は、逃げたくても帰る先はないし、ここにいようにも相撲は弱いし、
毎日どうしたらいいかってクヨクヨしていたネ。

東京の生まれで、大きいもん一つ持ったこともなくて、
体ばっかりデカく、ブヨブヨしてたんだから弱いワケだよ。
だから下積みも長かったア。

冬の寒い日なんか、部屋がすぐ両国の川っぷちだったから、
雪の降る川を眺めていると、前が柳橋の料亭でネ。
ドンチャン、ドンチャン飲んだり騒いだりする声が聞こえるわけよ。
 
俺は、相撲とったってダメだし、ほかは何もできないし、
ほうり出されたら、どんなとこへ寝るんだろう、
とそんなこと考えていたら、悲しいやら、なさけないやら。
 
人生、川ひとつへだてれば、こんなにも違うものかとつくずく思ったネ。


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しかし、16、7になってみて、
結局、俺はこの世界に食らいついていなけりゃあ
他にできるものはないんだからと悟って、さみしいとか辛いとか思わないようにした。
 
馬鹿なこと言ってみたり、ふざけたり、すごくケイコしたり、
つとめて暗かった性格を明るく変えようとしてみたんだ。
それからだった。あいつア、相撲取りン中で一番面白いとか、
朗らかだとか言われるようになったのは。

そんなことをしていたら、番付けもどんどんあがっちゃって、
なんだ、やれば出来るんだナってことがわかった。


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途中で、兵隊にとられたけど、普段なぐられたり、けっとばされたりしていたから、
軍隊なんて遊んでるみたいなものだったネ。
同じ隊へ入った連中は、辛いって泣いているんだよ。
そんなのが不思議でネ。
あんた達こんなもの辛かったら、相撲社会なんて一日もいられないよって言ってやったネ。
 
三役にあがるときかな、落ちるときかな、
ちょっと面白くないことがあって横綱とケンカやっちゃって、
この野郎って思ったのネ。
そうしたら今まで、ケイコやってて一度も勝ったことがなかったのが、
翌日申し合いやったら、五番やって四番勝っちゃった。

この野郎!って気持ちをもつと、自分の力以上のものが出るんだね。
自分でもビックリした。
相撲なんて、そんな気力が大事だね。

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相撲の世界にいて、辛いことって二通りあった。
ひとつは、俺だけのことだけど。
激しい稽古なんかじゃなくて、それよか精神的なもののほうだったネ。
 
たとえば、夏になると親兄弟のある者は浴衣を送ってくる。
冬になりゃ足袋だ。
それをみんなの前で開くんだナ。
そうして
「こんなもの送ってきたって、田舎の宿屋の寝巻じゃないか。
 みっともなくて着れるかい。だれか着ろよ。」
って得意そうにほうり投げるんだネ。

親兄弟がある奴はいいや。
こっちは横目でみてて、それが辛かったワ。


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もうひとつ。

相撲社会にはこれだけは耐えられない、ということもあるんだヨ。
幕の内あがって、若い者三〜四人つかって背中洗わせたり、尻はらわせたりしている。
そのうち、自分が幕下に落っこっちゃって、
こんどは、自分の使っていた奴が関取になったりすると、逆転だ。
 
そいつがめしを食い終わるまで、じーっと待っていなくちゃあならない。
それは昔も今もおんなじ。
そんな時のみじめさったらないネ。
だから引退ってのは、体力の衰えだけじゃなくて、
そいう屈辱に耐えられなくなって、ということもあるわけだ。

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若秩父という若い力士がいた。
俺と取る時、塩を大にぎりにつかんでパッと土俵いっぱいにまくんだ。
だから、おれは、指先でつまんで、チョビッと落とす。
すると、館内が爆笑の渦だった。
あいつが、23〜4で充実して下からあがってくる。
こっちは34〜5で下り坂。
同じ力でぶつかったって本当は勝てないんですよ。
 
お客が、ワーってわいてくれることによって、相手が動揺する。
そこをつけこむわけだ。
だけど、客は出羽錦(当時のしこ名)の野郎トボケてるなんて思ったらしいネ。
年とるとネ。もう体力がなくなるから色々、策を考えるんだヨ。

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引退するまでに、胸を合わせた横綱は10人くらいだったかねエ。
中には立ち合い前にドキドキして、胸ンとこの筋肉がピクピクしている奴とか、
仕切る時にハーッと下むいちゃう奴なんかいたな。
そういう奴は、あまり強くなかった。
そら、あのxxね。
知ってるでしょう?
あれなんかそうだった。
名前ちょっと言えないよね。

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田子の浦さんの面白い話を聞いて、帰り道両国を通り、下町にある自宅に帰った。
両国、深川界隈は相撲部屋が多い。
時折、ちょんまげで、めがねを掛け、半ズボンで自転車を漕ぐ、若い力士を見かける。
ぼくには、それが自然な風景だ。

のたり松太郎や、田中クンの姿が、いつも若い相撲取りにダブル。
どういうジャンルのアスリートよりも、彼らに人間味を感じてしまうのは、
どうも、ちばてつやの読み過ぎのせいかもしれない。

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コメント

こんにちは。

華美です。今日から春場所が始まりましたね。
大相撲を日曜夕方から家族でだらりだらりとテレビで見るのが子供の頃から好きでした。

愛媛にいる頃、相撲の世界は遥か彼方でテレビの世界だけでした。
力士の人たちがどんな稽古をしているのか、どんな生活をしているのか不思議でした。
最近になってはじめて「のたり松太郎」を読んで相撲の世界を垣間みています。

〜青春どすこい〜から稽古の激しさや部屋の空気感を写真を通じて感じました。
ちゃんこを作っている姿や風邪で寝込んでいる姿、電話している姿など、松太郎や田中君を重ねてしまいます。

おもろい話05 〜青春どすこい〜の第二弾があればいいなーと思います。
とてもいい写真で、さっき相撲をみたばかりなので感激しました。

投稿: はなみ | 2009年3月15日 (日) 19時22分

 華美ちゃん、コメントありがとう。
 あそこには、書かなかったけど、結構、ケイコはきびしいんだよ。 
 へたると、青竹でたたいたり、粗塩を、口にねじこんだり、一見、残酷
 そうにみえるけど、限界と感じたところから、その荒療治でもう一度、闘志が湧いてでるんだね。 
  ほかの格闘技も似たりよったりだと思うよ。

投稿: ゲンゴロウ | 2009年3月15日 (日) 21時58分

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