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多摩鶴牧、丘の上の雲。

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多摩ニュータウンに15年ちかく住んだ。
古い町も大好きだが、山野を切り開いた新しい都市に住むのも魅力的だ。
未完成の時点で住みはじめ、刻々変貌していく環境を楽しむのも大きな醍醐味だった。
ぼくの住んだ鶴牧といいう地区には、隣接して小高い丘があって、
四方八方さえぎるもののないのびのびと眺望がたのしめた。

ときどき、その丘の中腹で寝そべり、本など読むのだが、
ある時、「ヨオ!」っと、見知らぬ中年男が、声を掛けてきて、傍に座った。

「なんだい」と思ったが、元来こういう出会いは、嫌いじゃぁない。
「近くの落合に住む、北条てんだ」
すこし、酒がはいっていた。
なにか、しゃべりたいことがあるらしい。
「きいてくれる?」
しおらしい言い方だ。
いいよ。聞いてみることにした。

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ガキがねェ、高校生なんですよ。
これがね、てめえの子だって思えねえんですよ。
てめえの女房が生んだのはたしかだから、てめえの子供である確率は高えわけよ。
同じような目鼻たちで、おれのように五体満足だから、
同じ人間だと思って安心しきってた。
みにくいあひるの子じゃあねえけど、最初がおかしきゃあ、
こりゃあ俺達とはちがうぞって注意してみるんだけど、最初はこっちとおんなじ人間にめえたから、
心配しなかった。
犬猫みてえに腹んなかわからねえ動物が同じ家んなかにいたら、はなから警戒するわな。
だって、黙ってりゃあ、おぜんの上のもんは喰われちゃうは、
腹へりゃあ夜中にこっちの耳を齧んねえともかぎらねえしな。
だから、こりゃあまずいやと思ったら、はなからぶんなぐったり、粗相したら、そこで血がでるまで、
鼻こすりつけて、懲りさせるもんな。
だけどおれのガキャア俺とおんなじ顔してたから警戒心はなかったぁね。
オレ達が喰いもんがなくて苦労したからせっせとガキにゃぁ喰わせた。
だが、おかしいなあと思ったのは、15くれえの時かなあ。
からだっつきが、どうも俺と違うんだなア。
足は、カニみてえにやたら長くのびるし、顔もニキビもつくらねえでスベスベしている。
匂いはちがうし、やるこたあ勝手なことばっかり。
そのうち、俺の財布からゼニが、なくなったり、カード会社から買った覚えもない請求がきたりした。
このやろう、やったなと思った時にゃあ、やつは、歯ァむきだすようになっていた。
昔、貧乏があたりまえの頃ァ、親は喰わずとも子に喰わせたから、ホントに親はありがてえて思った。
それを、このがきゃぁ、
「いまあ、腹一杯喰える時代なんだ。それを喰え喰えって押しつけられたってちっとも有り難かあねぇ」
って、こうぬかしゃあがった。
学校は、さぼるし、夜中あほっつき歩くし、なにゆったって聞きゃしねえ。
ゼニは、女房ゆすってもってくし、俺が、商売やってこつこつ貯めたのだって
奴ァ、「てめえが、貯めたんなら、オレが貯める必要はねえよな」と、こうだ。
イギリスでも金にぎった人の二代目、三代目は働かないって聞いたね。
考えつくこたあ、遊ぶことばっかりだ。
オートバイぶっとばしたり、女のケツ追ったり、その程度のもんだ。
小言いやあ、デケエからだで親をおどかすしなあ。
「親ばっかいじめるもんじゃあねえ。もっと強ええ奴いじめてみろ。
国会議事堂の前で、てめえの身体あコンクリート漬けにして、社会をよくしろとかやってみろ」
っていったら、奴アァ、
「ナニぬかすか、このバカァ、てめえもあいつら(議員)みてえに、ふてえ金儲けしてみろ」
とこうぬかした。

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学校の先生にも、どうしたもんだろうって相談したことがあったわ。
「いまどきの子供は、知恵ばっかりつきすぎて、こっちでなに言っても、屁理屈いうから、話にならない」
っていうんだ。
ヨットスクールにぶちこんだらどうだろう(当時、戸塚ヨットスクールのスパルタ教育が、問題になっていた)
って言ったら、「おとうさん、そんなこしたら、殺されますよ」と、こうだ。
親ァ刺して血が出たって、あんまり感じねえような神経になっちゃったってゆうんだから、
おれにゃあもうわかんねえよ。
じゃあ、やりたい放題やらせるほかねえですか、というと、先生は、こっくり、うなずいたよ。

近所の絵描く人にも聞いた。
こう言ったよ。
「おやじさん、あんたは一生懸命喰うや喰わずで、いろいろ作りあげてきた。
それが、ちゃんと出来上がったんだよ。
だから、子供は、それをこわすの。
だって、自分が作ろうと思うものがなきゃあ、壊すことしか面白いことないでしょ。」
まあ、理屈にゃあなってないけど、ガキがそう思うんじゃあしょうがねえ。
絵描きさんは
「教育つうものは、いまの子供には効かないの。ヨットスクールでもスパルタでやって、
いろんな理屈はあるだろうけれど、結局、こりゃあ死ぬな、殺されるな、と自分が思った時、
人間はじめて変わるんじゃないの。
ヤクザの世界から逃げてくるガキが、そうだそうですよ。」


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菩提寺の和尚にも聞いた。
「息子のことは、もう考えちゃあいけないよ。
目の前、ホコリたてて歩いて行っても、それは、めえ(見え)なかったと思うこと。
悪態つかれても、あんたの耳は、都合のいいことしか聞こえないようになってるの。
そう思うこと。
あんたは、いいと思うことをやればいいの。
セガレでも近所でも、客にでも、黙ってよかれと思ってやっているのが一番いいの。
目えつぶって、何年かそうやって、目あけたら、世界はきっと変わっているよ。」
こう言ったよ。
ま、そういうことかな、ってこの頃、そう思ってるワ」


落合の北条さん、ながなが、お話ごくろうさんでした。
鶴牧の丘の上には、いつもぽっかり雲が浮いてます。


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