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麻布、風と光と。その1、夢の店二つ。

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ぼくは引っ越しマニアで、なんとなく東京の街をあちこち転々としてきたのだが、
じぶんが、街にどんなものを求めているか朧げながらイメージしていた。
もちろん求めるものは、多いのだが、
端しよっていえば、面白い店。
夢のある店とでもいう魅力に出会いたいということでした。
今回は、麻布十番。
ご存知のように、ここは山の手と下町を一緒にしたような面白い街だ。

おいしいコーヒーを飲み、同時に「雑煮」も食べたい、というヘンな男がいるとする。
ぼくのことだ。
OK! 食べられる店があった。

喫茶の「ぽぽたーじゅ」。
自慢のコーヒーが主力だが、雑煮も食べられる。
ユニークな店だったが閉めてしまった。
12月2日に店の前(半地下だ)を通りすぎると、小さな、休業の掲示が貼ってあった。
毎日、雑煮を食べにきた原ストアのおばさんや、志村けんさん。
ここのマスターと仲良しだけど、寂しくなるね?

街は、ただ物価が安く、利便性の高い店舗、
コンビニや量販店があればそれだけで満足できるわけではない。
やっぱりその街に夢のある人や、夢のある店が、なければネ。

今回は麻布十番の二軒の夢の店を紹介したい。


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店のひとつは「カレードスコープ昔館」だ。
筒を覗けば、絢爛豪華。
さまざまな色彩や模様が乱舞する、万華鏡を扱う店だ。

江戸川乱歩の小説に「鏡地獄」という作品がある。
レンズや鏡の魅力にとりつかれ、遂には自宅の庭に不思議な鏡の部屋を作り、
非現実の世界に嵌まり込んでしまった男の話である。
幻想の世界に遊ぶ道具とは、マニアックな大人の玩具なのか。


万華鏡(カレードスコープ)は南蛮渡来の珍品として、早くから日本でももてはやされていた。
日本ではじめて、万華鏡の専門店を開いたのが、この「カレードスコープ昔館」のオーナーである。
かれは、二十数年前、アメリカ人のコレクターのコージー・ベーカーさん(カレードスコープの普及活動も行っている)
を訪ねて、日本で専門店を開きたいと相談した。

ベーカーさんは、欧米でも専門店は、経済的に成りたたないのに、
東洋の狭い島国でそんな商いが成り立つわけはないと思ったらしい。

「ダメ、ダメ」
やめなさい、と忠告した。

しかし、わがオーナーは専門店でやりたい、と最初から決めていた。
万華鏡に対する強い思い入れがあったのだ。


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あやしげな美しさ


そもそもカレードスコープは、ブリュースターというイギリスの物理学者が、
19世紀に考案したもので、ブリュースター効果という言葉もある。
この鮮やかな美的世界をぜひ、芸術面で役立てたいというのが、ブリュースターの願いだった。
幸い、その後現れてきたアーチスト達によって様々な芸術作品として世に送り出された。
この店に並ぶ作品は、九割かた米国作家のものだ。
日本作家は、10人位らしい。

オーナーは、最初、

こういう主観的な価値の万華鏡は、
価値を知るもの同士のぶつぶつ交換がふさわしいのではないか、

と考えたという。

かなり宇宙人的発想ではないか。
ブリュースターが、哲学的おもちゃという理念をもっていた、というから、オーナーもその理念に共感したのだろう。

カレードスコープは、価格はピンからキリまで、1000円から300万円するものもある。
お年玉を貯めて高いカレードスコープを買いにきた小学生がいたそうだ。


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仕入れは米国が主だが、難渋するらしい。
なにせ、これを作るアーチストは、変人や気難しい人が多い。
放浪癖があって連絡のとれない場合もあるようだ。
いまどき、こんな経済効率の悪い仕事をしている人は少ないが、
人生、高い価値観で生きている人もいるんだ、ということが、ぼくに夢を与えてくれるのである。

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もうひとり、青い目のエイミーさんの店だ。
「藍小物屋」だ。

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店名は、「ブルー&ホワイト」
藍と白を基調にした小物や衣類などを揃えている。
ほかにも、浴衣地で作った帽子やランプシェード。
おかめ、だるまなどが、今風のユルキャラ仕立てで面白い。


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ゆるキャラ


店主の加藤エイミーさんは、アメリカ人。
ボストン大学で美学と哲学を学んだのだが、日本の伝統技術のスバラシさに痺れた。
特に藍染めに魅せられて、日本全国の職人を訪ね歩いている。
古い素材に新しいデザインを加え、使いやすい生活用品を、作ってくださいと職人達に依頼しているのだ。
職人に頼むといっても、伝統的な形に彼女のアイデイアが加わるわけだ。
「なんで、こんな形にするんだ」職人は頑固者が多い。
こうしたらどうだろうか。
エイミーさんが、いろいろ提案すると、
「うーん。頭が痛いなあ。」と、なかなか職人との折り合いが難しい。
エイミーさんは、
「職人は、ひとつひとつが手作り。そこに命を入れるのだから、
充分話しあって素晴しい提案をしないと、彼らは納得しない」という。
「深い味わいのあるものを作りたい。そして、少しビックリを入れたい。
だって、江戸時代は、それがあったでしょう?」


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エイミーさん

「大切なことは、日常のものだと思うの。茶碗、テーブルクロスなど、生活の
中心だから毎日眺める。”無口の影響”が大きいですね。子供も家庭のなかで
”もの”に影響を受けるのが大切です。」
エイミーさんは、いろいろな所を歩く。
蚤の市、骨董店、庭園、日本の古い家屋など、そこからさまざまな情報を得ていい職人を探し出す。
そのため、地方をくまなく廻る。
だが、年々いい職人が老齢化していく。
後継者も少ない。
信州でわらじを作っている人たちがいる。
そのなかで、90過ぎたおばあちゃんが、ひとりだけ七色の布で編んでいた。
「楽しい作品だった。高齢でも柔軟で夢があるのね。
でも亡くなっちゃったの」
エイミーさんは、
「ワタシ、いまの時代は、早くバトンタッチしないと、レースが終わってしまう、と心配です。
職人さんに、後継者を早く、お願い。」と云い続けているという。
外国人なのに、こよなく日本の職人の技術を愛し、伝統の継続を請い願う。

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店を訪れる客は、日本人と外国人の半々くらいらしい。
本国アメリカでもエイミーさんの店は有名で、ファンも多い。
しかし、エイミーショップで伝統的かつ個性的な作品に接して、
一番ショックを受けるのは、日本人なのだそうだ。
「伝統的なものって、こういう新しい要素を加えて、生き抜いていくのね。」
「それを外人さんがやってくださっているのね。」
客は、ため息をつくのだそうである。

夢の店、ふたつでした。


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