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義士の冬、気になること。

1
泉岳寺

今年も12月14日、赤穂浪士の討ち入りの日がきた。
両国と泉岳寺はやはり人、ひと、人で、街路のあちこちを文献片手に、
みなキョロキョロゆかりの場所を見回している。
「あのビルの裏あたりが、吉良の首をとった部屋ではないか」、など
高齢者の人たちの歴史研究も細部にわたってきたようだ。

2
吉良邸あと

ずっと前、皇居(江戸城)の中を巡ったことがある。
広々とした空間に松の廊下跡が残っていたが、
1701年(元禄14年)の吉良刃傷沙汰のあと、1725年7月28日にまた、
この松の廊下で同じような事件が起ったと知って、エッと驚いた。
信州松本城7万石の水野隼人正忠恒が、長府藩主の子、毛利主水頭師就を斬りつけたのである。
やった方は、うらみ、やられた方は乱心ということで、これまた、似たような動機だったようだが、
赤穂浪士の騒ぎに疲れたのか幕府の処理は、目立たず穏当なものだったという。

六本木ヒルズやテレビ朝日などの周辺の大規模工事が始まった頃だった。
その一角にある毛利庭園の改修でブルトーザーが唸りをあげていた。
そこは毛利甲斐守の上屋敷で、竹林唯七をはじめ10名の赤穂浪士が切腹した場所がある。
そこが工事で、どうなるのか気になった。
こりゃあ、切腹した現場を写真で記録しておかねばとあせった。
工事の管理者が、親切な人で、そっとその庭園に入れてくれた。
現場は、木々が生い茂り、当時そのままに保存されてきたかにみえた。


3
毛利庭園10年前


ぼくが心を痛めていたことがある。
この竹林唯七たちのことだ。
預かったこの義士達に対し長府藩毛利家の処遇が厳しかったという。
細川家の手厚い遇し方に比べ、随分違ったと述べる研究家もいる。
ヒルズ界隈が整備された直後、気になっていた毛利庭園にでかけた。
義士達は、またも、ついていなかった。
やはり、気になっていたのがアタリで、毛利庭園は妙に華やかな庭園に変わっていた。
あの義士達の、気配も、静寂も消えていた。


4
毛利庭園現在

やはり、事件のモニュメントは、出来る限り残して置きたい。
細川家(高輪)は、大石内蔵助をはじめ17名を預かったが、
当主は「武門の名誉、これにすぐるものはない」といって、かれらを手厚く遇したといわれる。
切腹の場所は大書院上の前庭、横に能舞台、後ろに池、という絶景の環境を設けた。
当主の細川綱利は、義士の切腹後、「飛び散った血の跡はそのまま末の世に残せ」、
と現状のまま保存させたという。
そこは門の隙間からしか覗けないが、それだけにリアルだ。
細川邸は、ほかに広大だった敷地の一角が残されて、巨大なしいの木が、高くそびえ立っている。


5
細川邸あと、大石良雄ほか切腹の現場


そこから、300mほど高輪の住宅街の裏道を泉岳寺に向かう。
泉岳寺では、参詣の人々の線香の煙があちこちにゆらぐ。
浅野内匠頭の切腹の血を浴びた「血染めの梅」が、もの云いたげに立っている。
芝、田町の一の関城主田村右京太夫の屋敷にあったものだ。
その田村邸から、内匠頭の遺骸が脇門を、移送されていった。
その脇門は、その後、方南町の東運寺に寄進、移築されたという。
そこへ行ってみた。
猫が何匹もすっと現れ、愛想なく立ち去る。
その門の前に佇み、なんともいえぬ感慨にひたる。


6
細川邸跡とシイの巨木

最後に、気になる一人の人物がいる。
寺坂吉右衛門である。
義挙のあと、かれは逃亡したのか、あるいは使者として、赤穂へ旅立ったのか。
世間のかまびすしい噂にさらされた。
諸説あり。
いろいろ書かれたものを読んだが、ぼくは使者説で納得したい。
泉岳寺の義士たちの墓の一角に、寺坂の墓があった。
ちょっと驚いた。
なぜなら、南麻布の曹渓寺に寺坂の素朴な墓があり、
ぼくは、そこに参拝したことがあるからだ。
寺坂は、その寺で一生を過ごし、そこで果てたといわれている。
墓がふたつあるとは、不思議だ。

12月13日、寺に寄ってみた。住職がひとりで庭を掃いていた。
墓に参拝しようとしたが、だめだという。
なにか理由があるのだろう。
「泉岳寺にも寺坂の墓がありますね。本当のお墓は、こちらですよね。」
ぼくが問うと、
「そうです。墓はここです。しかし、泉岳寺以外にも全国に沢山あるそうですよ」
と住職は、苦々しげに答えた。
吉右衛門は、83才で亡くなった。
芝居の「仮名手本忠臣蔵」や、講釈師による「義士銘めい伝」など赤穂浪士のさまざまな美化の始まる、前年の死だったという。
生きていれば、寺坂は自分の描かれ方をどう思ったのだろうか。
人間の生、そのドラマは神がつくり給う筋書きで、真実は複雑だ。

7
浅野内匠守の遺体がくぐった脇門


8
寺坂吉右衛門の墓(泉岳寺)

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