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知らない町を歩いてみた。終着駅、小島新田と川崎大師。

01
知らない町 川崎小島新田

もう、あまり帰ることもない、ふる里。
東京に住んだ時間が、少年時代の故郷の時間を超えた。
夕焼けと、おかあさんの呼び声も消えた。
あの少年時代と、低い家並の連なる、ふる里が消えた。

いま、ぼくが立っている、ここは、
我がふる里とは似ても似つかぬ、風景だが、高架の長く延びた
道と、そのむこうに、沈む夕日を眺めていると、
背中から、ゾクゾクと、郷愁の想いが、こみあげてきた。


今日(5月8日)、
知らない町へ行くことになった。
厳密ににいうと、川崎のお大師さんと、大師線の終着駅の、ふたつの町だ。
息子(川崎に住む)が毎年、東雲に住むぼくのため、川崎大師に健康祈願をしてくれる。
おかげで、元気だ。
そのお礼参り、がひとつ。
もうひとつは、友人の、吉本由美ちゃん(ご主人は、もとカクスコの隆さん)が、
パフォーマンスを、小島新田の根本造船所で、
やるというので、それを観に行くのだ。


02
大師仲見世

まず、「あらゆる厄を祓って下さる」お大師さんに詣うでる。
成田山、高雄山と並び「関東三山」のひとつで、正式には、金剛山金乗院平間寺だ。
初詣うでには、300万人(全国3位)の善男善女がお参りするそうだ。
「すごい!」
ご加護を感謝して、しばし堂内に佇む。
今日は土曜日なのに人出がすくないな。
まばらな客でも、仲見世の呼び込みは元気がいいぞ。
飴や、葛餅や、だるまさんの三種類の店が、どどどと並んでいる。
著名な、飴の松屋、久寿餅の住吉屋、だるまの、かどや開運堂。
判ってますよう。
大師だるまは、鼻筋が通っているんでしょう。

ととんとんとん、これは、あめを刻む音だ。
「え!ロボットがやってんの?ほんとオ?」
この音が、日本の音100選に入ってるんだってさ。

「ほれ、こっち、こい。」キョロキョロ、好奇心旺盛なワンちゃんに、
太ったおばさんが曳きずられてゆく。
「ほらネコちゃんが寄って来たア。」(これは、ぼくのいたずらだ、ヨ。)


03
参道のおばちゃんと犬

門前の松月庵(1884創業)で、てんぷらそばを食べる。
お礼参りの、帰りはいつも、ここの天ぷらそばだ。
由美ちゃんのパフォーマンスが午後7時なので2時間ほど、町を散策する。
思えば、お寺以外、そば屋にしか立ち寄ったことがなかった。
だから、町のことはほとんど知らない。
緋色で鮮やかな塗りあげた、お寺があった。ウーム、目がチカチカするほどだが、
見事である。

04
あざやかな朱塗りのお寺


門前で、しばし、佇む。
さっと、歌謡メロデイが、耳元を通り過ぎた。
ふりかえると、おじいさんが、ラジカセを満開にして、自転車で走り過ぎたのだった。
「ウーン。爺ちゃん、やるなあ」
緑の、繁るにまかせたボロボロの家がある。
奇怪な人物が、その家のわきから現れる。
撮影しているぼくを鋭い目つきで、ギョロリと睨んで去る。
やはり、都心と違い、このあたりは不思議な雰囲気で面白い。


駅前から、3本の道がのびているが、
栄えある表参道の商店街に外れて、レレレのレの方角に、ちょっと侘びしい商店街がある。
「よし、そっちへいってみよう」
造作のしっかりした店があるぞ、ここは、老舗のようだ。
石渡燃料店と看板にあり、隣に石渡パン屋がある。
当然、これは、この燃料屋の息子が、パン屋を開いたであろうと推測する。
「ネ。そうでしょ?」
近くの喫茶「じゅん」で、コーヒーを飲みながら、高齢の女性オーナーに
そう訊ねると、
「よく、ご存知ねえ。そのとうり。
 石渡さんは、大地主でしてね。このあたりの土地は、だいぶお持ちなのよ。
 店では、いまでも練炭や、たどん、売ってるのよオ。
 わたしは、横浜から、ここへきて、30年になるんだけど、
 土地もちでないと、とてもじゃないけど、商売やってらんないですよ。」
「ご苦労わかります。」と、ぼく。
「コーヒー、いいお味」妻も世辞をいう。


05
フジギな緑の家(右上)
石渡燃料店(左下)喫茶じゅん(右下)

大師駅にゆく。
夕暮れの、ローカル線の上りの駅は、人がまばらだ。
女性が、メールをみながら、上りの電車を待っている。
おっと、こっちの電車が先に来ちゃった。


06
18時の川崎大師駅

大師駅から、終点、小島新田まで、4分だった。
どん詰まりの駅や町って、寂寥感があっていいね。
何十年かまえ、やはり、夕暮れの根室の町の、うら寂しい風景に、しびれたものだった。
陸橋を渡ろうとして、階段を上ると、長い道が西に延びていた。
そこで、冒頭に書いた、子供の頃の郷愁に浸った話になるのである。
このあたりは、京浜工業地帯に繋がって行くのかな?
ケバケバしい光や色がない。
つつましい町。
その寂寥感が、心地いい。
「おうちがだんだん、遠くなる。遠くなる。
いまきた、この道、帰りゃんせ。帰りゃんせ。」
子供時代の、あの歌のムードだ。

07
小島新田駅あたり


その風景をあとにして、由美ちゃんの、パフォーマンス現場に急いだ。
根本造船所。
ちいさい造船所だが、ここのさびれた感じもまた、いい。
はがねのロープや、鉄の固まりなど、「もの」に人間の汗の混じった現場には、
人を不安と同時に、郷愁に引き込む魔力がある。
海から吹きあがってくる風は、意外に冷たい。
昼間、20度を超えた気温が急激に落ちて、半袖の観客は、襟を立て始めた。
「これは、なにかアクシデントがありますよ」
友人の岡光さんが、いう。
「ウン。だれか海にのみ込まれるとか」と、ぼく。
「そ、そう」
ふたりで、くだらない冗談を言いながら、寒さをまぎらす。
坂本さん(チェロ奏者)、コスマス カピッツアさん(パーカッショニスト)
オブジェの津田さん、照明の阿部さん、といずれも一線で活躍している人と、
由美ちゃんとのコラボレーションだ。
ちなみに、由美ちゃんの衣装は、わが愛妻が、縫った。

08
根本造船所


鉄のレールが海にすべりこむ引き込み線で、いきなり由美ちゃんの、パフォーマンスが始まった。
大きな薔薇のオブジェが、クレーンから吊り下がる。
美しく華奢な、からだが、ダイナミックな踊りを展開する。
瞬く間に舞台が移動する。
硬質、無機質な舞台のむこうに、工場群の光芒が冷えた抒情を奏でる。
しなやかな姿態。
それが無機物と闇に、からみつき、対話をしかける。
漆黒の海から、湧き出るものはなんだ?
闇の王へ、踊れ、踊れ! 歓喜のリフレーン。
イメージは、全く違うが、
ウヒッツでみた、「ヴィーナスの誕生」を、ふと、思い出す。
ほかのアーチストも、その小さなエナジーの爆裂に連鎖する、
雄叫びの響き、や、アクションだ。
「#%<*!$』
もう、どこへでも飛んでゆけ。


09
吉本由美さんのパフォーマンス

パフォーマンスもよかったが、彼女が、この現場を選んだとき、
すでに成功は、予見されていたといっていいだろう。
ぐったり疲れたぞ。
ぼくも。
造船所の前で、息子が買ったばかりのブルーのかわいい車で、待っていてくれた。
「ありがとよ」
寂寥に彩られた町よ、さようなら。
由美ちゃん、しばしの夢を、ありがとう。

10
吉本由美さん

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