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〜漱石ハートにナビゲート2〜我が輩は猫の家。

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漱石、猫の像

「我が輩は猫である。名前はまだない。」

漱石が明治36年に居を構えた文京区にある千駄木町57番地に、黒い野良猫が迷い込んで来た。
追っても追っても入り込んで来て、蚊帳(かや)を破き、子供をひっかき、
その上お鉢の上に坐ったりしている。
「図々しいわねえ」と猫嫌いの鏡子夫人に疎まれていたが、
ある日、夫人の贔屓の按摩さんは
「この猫は爪の裏までマックロだ。これは福猫だから大事に飼ってあげなさい、幸運に恵まれますよ」
とのご託宣を授けた。
ご託宣通りその猫を飼っているうち漱石は猫を主人公の小説を書き上げる。
「ホトトギス」に発表するやいなや小説は、爆発的な人気を博し予言はまさに的中したのだった。
この小説は、漱石の哲学や文明論のはいる小難しいところもあるが、
大半は、日常生活のくだらぬ井戸端会議ふう、落語的な写生文だ。
登場人物も、猫や主人公の苦沙弥(くしゃみ)先生に漱石自身が、
投影され、その他の人物もまわりの、人間がモデルになっている。


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猫と漱石。岡本一平絵

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漱石邸跡の付近の猫


小説のなかで、この家の裏手が中学校(旧制)で生徒どもが庭に入り込んだり、大声で歌を歌ったり、うるさい。
それに野球のボールが頻繁に庭に飛び込んでくる鬱陶しい出来事に漱石はカリカリしている。
生徒を怒鳴ったり、学校側に抗議し、腹だちはなかなか収まらない。
したがって小説中の描写だって学校や生徒に好意的には書かれていない。

学校名は、落雲館中学で、モデルは郁文館である。
「坊ちゃん」の描写を思い出して、プッと吹いてしまう。
なんと、小説のなかに50ページ近く(文庫本で)しつこくこの事にふれて漱石はいらだっている。
郁文館は、立派な学校である。こんなかたちで小説に登場するのも気の毒だ。
いまも、ほとんど同じ地形で、グランドが残っている。
野球などでそこにいた先生と生徒に感想を聞いてみようと思ったがそばまでいってやめた。
当時の漱石は、極度の神経衰弱と教師生活の不満を抱え、荒れ狂うこともしばしば、
家族はじめは周辺の人々は腫れ物にさわるよなありさまだった。


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漱石邸跡

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旧居、明治村に移設

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漱石邸裏手の郁文館

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郁文館グランド


ボクは漱石邸跡の周辺に散歩の足をすすめ、
小説に登場する西洋館の倉がある豪邸をみつけた。
や!や!小説に現れる金田さんの御屋敷か?
金田さん(40位の女性)は、ある日、苦沙弥邸に「あなたの友人の寒月」が教師風情でありながら、
当家の娘と交際しているのではないかと抗議にくる。
我が輩(猫)は、この、顔を天にむけた、ダイヤの指輪をはめ、鼻がむやみにおおきい彼女が大嫌いである。
我が輩(猫)は、彼女に金田鼻子と渾名をつけた。
この金田邸は、小説の中では、
「向こう横丁の角屋敷で、大きな西洋館の倉のある家」と描かれている。
そことおぼしきあたりに、似た豪邸があったわけだ。
むろん、現実にいまあるその家の表札は金田ではない。
門柱に「電話***番」と三桁の電話の札がつけてある。
大正とか昭和初期の電話番号の状態のままの札を門柱に残してある。
まさか物語の人物鼻子には関係ないだろうが、
漱石が、小説の建造物のモデルとしてこのお屋敷を借用したのかもしれない、などとボクは想像を抱く。

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金田邸に似た豪邸

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この三桁の番号は歴史的だ

ふたたび小説に戻る。
苦沙弥や迷亭と鼻子のはなはだ品を欠くやりとりに、
猫は、「悪口の交換ではとうてい鼻子の敵ではない」と苦沙弥の敗北を認める。
インテリで、神経衰弱で時々荒れるが、あア、あ、とみんなに呆れられたり、
やさしいココロの苦沙弥先生である。
そんな落語的生活が、楽しく赤裸裸に描かれている。


終章に急ごう。
我が輩(猫)は、ビールを飲み酩酊状態でかめに落ちたが、
あまりもがかず溺れてあっさり死ぬ。
漱石は、生後すぐ我が輩(猫)とおなじ親に捨てられた身である。
赤子時代、養い親に連れられ四谷の夜店で篭のなかに、転がっていた。
続く人生も一筋縄ではいかなかった。
天才であるが、金銭欲や出世欲は稀薄な人だった。
だから、一生、家も買わなかった。
自分にとって価値を感じなければ、役所がひつこく博士号なんぞ呉れる、
と押し付けてきても、ゼッタイに断る。
「我が輩は猫である」はユーモア小説のようだが、猫の死で終わる。
もの哀しく、果たして明日がやって来るのかわからないような、
冷えた漱石の心境が彷彿と浮かんでくる。

猫の家近くに、垣根にへちまを植えた家があった。
いまどき珍しいゾ。
胸を病んだ、漱石の親友子規の家のへちま棚を思い出した。


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漱石の猫は、じたばたせず死んだ

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珍しや。へちまの塀

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