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根岸。子規、羽二重団子、三平堂。

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汽車過ぐる....


汽車過ぐる あとを根岸の夜ぞ長き 子規


根岸は、JRの鶯谷の駅の前にある街である。
上野の山から、ストンとズリ落ちたフラットな地形だ。
駅前に立つと、いきなり密集した商店街が迷路のように包み込む。
うろうろ、きょろきょろしていたら、交差点で元気のよさそうなおばあさんを見つけた。

「子規と三平と団子やに行きたいんだけど」

と訊ねたら、

「ホイキタ、みんなおんなじあたりだよ。ついてきな」

と、切れ味がいい。
そして、さっさと先にたって歩いていった。
悪いね、案内してもらっちゃあ、と恐縮したら、

「なに、わたしんちは、三平の裏だから」

こりゃあ、ハナっからいいおばあちゃんに会ったわ。
ついてる。

しばらく歩くと、ラブホだらけの狭い道にはいった。
ギンギン、ギラギラ……
古い歴史のある町なのに、いきなり、ギンギラの建物がひしめく、一角だ。
こりゃなんだ。

「外国みたいだろうがね。」

おばあちゃんがつぶやいたが、おばあちゃんの言いたげなホンネのニュアンスは、
なんとなく判った。

「このあたりは、加賀の屋敷跡だったんだよ。
 こんなんなって、殿さんも泣いとろう」

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この横町の先に子規邸


すぐ、その近くに子規の家があった。
子規も、泣いてるかな。
おばあちゃんは、

「ここが、子規、右手の書道会館の裏が、落語の三平、そこから左に
 ゆくと、羽二重団子だよ。」

簡潔に説明し終わると、ちょっこっと左手を振って、すたすたと彼女は去って行った。

「おばあちゃん、ありがとね。」

大きな声で、その背中にお礼を言った。

子規の住んだ家は、加賀の屋敷の一角にあるこじんまりした借家で、
裏庭には、へちまが植えられていた。
肺を患っていた子規のため、薬用に妹の律が植えたものといわれる。
子規といえば、終生、この業病との闘いだった。
この家で病と闘いながら、俳句の道に精進し、弟子や友人が繁く出入りした。

「戸を推すと、戸につけてある鈴がチリリンと鳴って、
 玄関の障子があく前に、必ず主人の咳を聞くことであろう。」
と、虚子は述べている。

子規は、業病を抱えていただけに、せめてもの、食への執念が強かったのかもしれない。
近くの店の羽二重餅をよく食べたといわれる。
甘いものが好物だったのかなあ。
子規は、明治21年22才の夏休みを、向島の長命寺の桜餅の店の二階で過ごした。
これも、甘い餅の店だ。
その時、店のおろくという美しい娘に恋をしたと噂された。
だが女性には、不器用だったのだろう。
華やいだエピソードには、恵まれなかった。
10年後、再びかれは向島のそこを訪れたが、おろくは嫁ぎ、会うことは叶わなかった。
子規は、土手にあがって隅田川の夕景を、しばらく眺め続けた。

葉隠れに 小さし夏の桜餅   子規

その時、うまれた句だ。

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子規邸

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子規邸

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子規邸の庭

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長命寺、桜もちの店

林家三平宅には、以前ぼくは、奥さんの香葉子さんのインタビューに伺ったことがあった。
いま家は建て直されて、ねぎし三平堂と命名、記念館になった。
子規は漱石と親交を結び、二人は落語が大好きだった。
仮に三平と、生きた時代が重なったらば、三平の落語を二人はどう評しただろうか。
学校帰りの小学生が、「サンペーでーす」などと唱和しながら走り去った。
ぼくも、羽二重餅屋に急ぐ。


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三平堂


この店は、子規が贔屓しただけに、店では子規との縁を強調し、ウリにしている。
店の繁盛ぶりを詠んだ子規の句もある。

芋坂の  団子売る店にぎはひて
団子くふ人   団子もむ人 (子規)

建物は、コンクリートに変わったが、裏庭は当時を偲ばせ、昔の店の資料なども、
保存されていて、客を喜ばせる。
羽二重餅は、団子の甘辛があるが、餅の風合いが、とても柔らかい。
そこから羽二重の名がついたといわれる。
ふわふわの餅だ。

「赤ちゃんが食べれそうだな」

ふと、わが家の、ののちゃんの笑った顔が目に浮かんだ。
さらに、これもまた老舗の豆腐の「笹の雪」の前を通り、駅に急ぐ。

みなずきや ねぎしすずしき ささのゆき  (子規)

根岸は、子規の句がいっぱいで、明治と現代の混じり合った、フシギな街だった。


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羽二重だんご

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羽二重団子

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店内の一角

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豆腐料理、「笹の雪」

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