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神田、多町司町。三軒のノスタルジー。

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神田、多町司町。

地下鉄丸の内線の淡路町で降りる。
久しぶりの町だ。
付近の神田多町と司町を歩く。
このあたりは、バブル期、すざましい地上げの嵐に遇い、
江戸以降続いた長い庶民の生活がずたずたに切り裂かれた町だ。
郊外に散っていった町の人達は、残った近隣の人々を懐かしみ、
ここに戻っては旧交をあたためたという。
当時、よくその話はバブル禍だと、マスコミにとりあげられた。
馴染んだ、近隣の人間関係が崩壊してゆく悲しい話だった。


 そして、東北。
隣人との暮らしや故郷の崩壊の姿は、バブルで、壊されたこの東京の町とも
つながる部分がある。
土地、家、人。
絆が、崩れて行く。
災害の暴力と、無能な政治に生活を揺さぶられる人々。
TVの映像は、住み慣れたふる里を退去させられ、青い森や、曲がりくねる畠の道に別れを告げる人々の、悲しげな顔を映し出す。

 神田の、この多町や司町には、災害や、戦災をまぬがれた、
明治以降の民家や商家が、すこし残っている。


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中林商店

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戦時中の防火用水

 栄ミルクホールという、古びた店舗がある。
昭和の初期から、暖簾を続けている軽食堂だ。
銅板の緑青がシブい。
愛想のいいおばちゃんとせがれが仲良く経営している店で、
三丁目の夕日の風景である。
戦後、そばが不足して、ミルクホールの営業に変えたが、
ラーメンが復活したあとも店名はそのままになっている。
ぼくが、ラーメンをすすりにはいった時刻は、三時近くだったが、
三々五々客がよどみなく出入りしている。
そばを楽しむこともさることながら、過ぎ去った昭和の残像を懐かしむように
店に人々が訪れる、てなマスコミのウリ文句に、ボクものせられたひとりだ。

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サカエヤ、ミルクホール


 その近隣に、これもギンギンの昭和がある。
65年前に行司の開いた甘味の店だ。(主力は奥さんだが)
行司は22代木村庄之助。
こぶりの気安い店で、典型的な昭和の風景である。
かれは栃、若時代といわれた、相撲の絶頂期の、立行司を7年半つとめた。
菓子は軍配を型どった「22代庄之助最中」が有名でおいしい。
それに発して、いまは20数種類の商品があるそうだ。
なかでもボクはここの懐中汁粉には、痺れている。
赤飯の、萬祝(まいわい)もあるが、なんと、これは秋篠宮や、愛子様がお召しあがられた逸品だそうだ。

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庄之助


もう一軒、忘れ難たい店と、人がいる。
いや、いた、あった。
「店は地上げで閉めた」
隣のビルの入り口にいた老人が、店の消息を尋ねたら、ぶっきらぼうに答えた。
3階屋で、外壁に緑青をふいた銅板の店、coffee AIKO という古めかしい喫茶店である。
80過ぎのおばあちゃんが、ひとりできりもりしていた。
昭和30年代には、亡くなったご主人が、銀座の「渡辺コーヒー」から極上の
豆を仕入れ、凝った味で評判のコーヒー店だったらしい。
蝶ネクタイのモダンなご主人は職人気質で毅然としていて、
マナーの悪い客は、追い出した、という。


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コーヒーAIKO


奥さんが、そのご主人の亡きあとを継いだ。
80いくつなのに、おばあちゃんは、元気だった。
下町ふうでユーモラスな人だったネ、と、おばあちゃんの印象を
「庄之助」のおばさんに話すと、
「かわいい顔で、郵便ポストのような体型でネ。」
と、おばさんの印象をズバッと付け加えた。
「あの、ストンと立った赤いポストのこと?」
と、ボク。
「かわいい人でしたよ。いま、神楽坂に越してってしまいましたけど」
おばさんは、懐かしむような目つきをした。


 ほかにも、もう取り壊し寸前の店や、かなり年期のはいった民家も頑張っている。
ビルが、割り込んで、古いコミュニテイはどうなんだろうと、気になるが、
「それが、ケッコウあとからくる人が協力的なんだ」と、地元の草土社の友人が教えてくれた。
この町もケッコウ集落のきずなは固いんだな、と思わせる。
その絆は祭りに凝縮される。
ことしは、震災の影響で、神田明神の祭りの神輿がでない。
町の人はみんな残念がってるよ、と「庄之助」で聞いた。
「なるほどね」
結びつきってことは、そういうことなんだろうね、と団地族のボクには、
聞いてはじめて合点のいくことだ。
東北地方の再建は、国のえらい人たちが、復旧ではなく復興だ、生活圏はここに、産業圏はあそこ、と
机の上で夢を描いているようだが、
そこに根ずいて生きてきた人々には、ちょっと違うぞ、
と違和感をもつことだろう。

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青果塩栄

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頑張っている家

 5/15.のN.H.K放映 の ETV 特集は、放射線汚染地の計測に身を賭す、
若い研究者と老科学者のドキュメンツで心うつものだった。
その、映像の最後には、家や家畜を捨てて去っていく老夫婦が登場する。
感情をおさえた老婆は、最後の餌を犬、猫に与えながら、
「やせたな」とポツリとつぶやく。
犬を玄関に繋ぐ。
そして、あわただしく立ち去る。
スピードをあげる車のリアウインドに、黒いかたまりのようなものが
車を追ってくる姿が写る。
飼い犬だ。
カメラもだれも、沈黙したままその映像だけ流れる。
それは、すべての絆を崩されてゆく象徴的な光景に思えた。


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NHK.5/15.ETV  特集

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放射能測定調査

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飼い主を追う犬

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